NHKスペシャル ネクストワールド 私たちの未来 第2回 寿命はどこまで延びるのか

公開:2023年01月31日
NHKスペシャル ネクストワールド 私たちの未来 第2回 寿命はどこまで延びるのか

1.日本人の平均寿命

私たちの寿命は医療の発展とともに延び続けています。
厚生労働省によると2019年時点で日本人の平均寿命は男性81.41年、女性87.45年です。
しかし「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされる健康寿命に関しては男性72.68歳、女性75.38歳となっており、男性では約9年、女性では約12年の差があります。
寿命が延びていても、9~12年は介護が必要になるといった生活する上での制限がかかってしまいます。
若くて健康なまま長生きするのは難しいと考える方が多いのではないでしょうか。

ところが、老化のメカニズムの解明によりその悩みは解消されるかもしれません。
2015年1月に放送された「NHKスペシャル ネクストワールド 私たちの未来」では最新の医療テクノロジーが紹介され、「若さを保ったまま歳をとる」ことが現実になるかもしれないというのです。
なかでも衝撃的だったのが、若返りが期待できるとされる「NMN」という物質です。この記事では、番組で取り上げられていた内容をもとに「NMN」について詳しく触れていきたいと思います。

2.老化をコントロールする「NMN」の発見

「NMN」は老化研究の第一人者である、ワシントン大学の今井眞一郎教授が発見した物質です。老化のコントロールに関係しているのではと近年注目されています。
番組で取り上げられていた研究では、NMNをメスのマウスに与えることで、寿命を16%延ばすことに成功しました。人間に換算すると約10歳寿命が延びたことになります。
また別の研究では、糖尿病を発症したマウスにNMNを1週間飲ませたところ、血糖値が正常値まで下がり糖尿病が改善したという報告もあります。これはNMNが老化した膵臓に働き、膵臓の機能を回復させたと考えられます。
NMNをマウスに投与することでアルツハイマー病が改善されるといった研究もあり、老化とともに増える病気に対しても効果が期待できそうです。
驚きの研究結果を次々と示すNMNですが、一体どんな働きを持っているのでしょうか。

3.老化のカギを握る「サーチュイン遺伝子」

番組ではNMNの働きについても紹介しています。
コンピュータの計算能力の向上でヒトゲノム解析が進んだことにより、老化をコントロールする長寿遺伝子「サーチュイン遺伝子」が発見されました。この遺伝子は7種類ありますが、普段は十分に機能していません。このサーチュイン遺伝子をどうやって働かせるかが老化に立ち向かうカギでした。
今井教授の研究のなかで7種類のサーチュイン遺伝子すべてを活性化させることができる物質が発見されました。それがNMNです。
NMNはもともとあらゆる生物の細胞内にあるビタミンのような物質であり、歳を取るとともに減少することが分かっています。
体内のNMNを増やすことにより、衰えた臓器を回復し、私たちの老化とともに失いつつある機能を回復させることが期待できます。

4.老化のコントロールから若返りへの応用

番組の後半ではNMNを老化のコントロールだけではなく、若返りに応用する試みも紹介されています。
ハーバード大学のデイビット・シンクレア教授は、NMNを若返りに応用する研究を行う長寿研究の第一人者です。
NMNは若返りにどのように働くのでしょうか。
脳の視床下部では身体全体に老化を止める指令を出しており、この指令は加齢とともに弱まるとされています。NMNは視床下部を刺激し、弱まってしまった指令を再び強くする可能性があるとのことでした。
番組で紹介されていた研究によると、生後22か月のマウスにNMNを1週間投与することで、生後6か月のマウスと同じ細胞の活性化レベルを引き出すことができました。人間に換算すると約60歳の方の細胞が20歳と同じ働きを持っていることになります。
NMNの研究が進むことで、若さを保ったまま歳を取ることが実現できるようになるかもしれません。

5.まとめ

若返りが期待されると注目の物質「NMN」について、NHK特集の内容を取り上げ、紹介しました。

  • NMNは老化をコントロールする物質
  • 長寿遺伝子「サーチュイン遺伝子」を活性化させる
  • 体内にある物質だが、加齢とともに少なくなる
  • 視床下部からの老化を止める指令を強くさせる
  • NMNを若返りに応用する研究がされている


長寿遺伝子であるサーチュイン遺伝子を活性化させるNMNは、もともと体内にある物質ではありますが加齢とともに少なくなります。
例えばNMNをサプリメントとして飲むことで私たちの身体の機能を健康なままにできるようになるかもしれません。
若くて健康なまま長生きすることが実現可能になれば、90歳、100歳になっても旅行に行ったり、スポーツをしたり、ダンスをしたり、今では考えられないような老後生活に変化するかもしれません。
そんな明るい未来のためにNMNの研究が進むことに期待したいと思います。

参考資料
厚生労働省「令和元年簡易生命表の概況」より
厚生労働省「健康寿命の令和元年値について」より
NHK「NHKスペシャル ネクストワールド 私たちの未来」より(2015年1月4日放送)

この記事を執筆した専門家

薬剤師ハルカ