NMNが動脈硬化を改善する可能性を示した論文
公開:2024年02月16日動物を対象とした研究で、NMNが老化を抑える作用があると報告されてから、ヒトへ投与した場合の安全性や効果を見た論文がいくつか発表されました。今回紹介する論文は、NMNがヒトの動脈硬化にどのような影響を与えるか調べた報告です。
1.動脈硬化とNMNの関係
動脈硬化とは、加齢や高血圧、糖尿病などのさまざまな原因によって血管が硬くなり、もろくなることです。動脈硬化は、脳出血や心筋梗塞など命に関わるような病気を引き起こすことがわかっています。しかし、一度硬くなってしまった血管は元に戻らないと考えられているので、なるべく動脈硬化にならないように予防する必要があります。加齢による動脈硬化の進行は避けられないものの、生活習慣によって動脈硬化を予防するためにはバランスの良い食事や適度な運動、減量、禁煙などを心がけるのが良いといわれています。
動物を対象とした研究では、老齢のマウスにNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)を投与したところ、血管の柔軟性の改善が認められたことが報告されています。NMNには、老化を抑える作用があることがわかっており、今まで多くの論文で明らかにされています。しかし、ヒトを対象とした研究は少なく、ヒトにNMNを投与した時に動脈硬化が改善するかどうかはわかっていませんでした。
2.ヒトを対象とした研究でNMNが動脈硬化を改善する可能性を認めた
マウスやラットなどのげっ歯類では、加齢によってNADの産生が低下し、代謝機能や認知機能、免疫機能などが低くなることがわかっています。NMNを投与するとすぐにNADに変換され、老化に伴う疾患を改善するといわれています。
2023年に報告された論文では、36人の参加者を対象に、動脈硬化に対するNMNの効果を評価するために12週間の無作為化プラセボ対照二重盲検試験(RCT)が実施されました。
具体的には、40~59歳の健康な男女36名が無作為に2つのグループに分けられ、18人は125㎎のNMNが含まれるカプセルを1日2回、18人はプラセボを12週間内服しました。プラセボとは、偽物の薬のことで、何も含まれていません。研究に参加した人は、自分がNMNを内服しているか、プラセボを内服しているかはわからないようになっています。
内服前と12週間の内服を終えた後に、動脈硬化の程度を見る検査や血液検査、血圧測定などを行い、変化を評価しました。動脈硬化を示す数値は、NMN摂取群で減少傾向にあったので、NMNの摂取が動脈硬化を緩和する可能性があることがわかりました。また、どちらのグループにおいても、有害な副作用は認めませんでした。
3.今後のNMN研究における課題
今回の研究では、NMNがヒトの動脈硬化を緩和する可能性を明らかにできましたが、いくつかの研究課題が残されています。まず、研究対象となっている人数が少なく、結論が多くのヒトにあてはまらない可能性がある点です。今後は、より多くの人数を対象にNMNの動脈硬化に対する効果を検証する必要があります。
また、動物実験で得られたような明らかな改善効果をヒトでは認めなかったため、今後の検証が必要です。動物実験で得られたような変化をヒトでは認めないことはよく起こるものです。動物で改善効果を認めたのにヒトで同じような効果を認められないのは、身体の大きさの違いや個体の特性の違いなどが原因として考えられます。マウスに比べてヒトの身体は大きいので、効果を出すための薬の投与量の設定も重要ですし、投与するタイミングの設定も大切です。また、実験用に使用するマウスやラットなどと違って、ヒトは代謝機能や年齢、合併症など個体の特性の違いがあるので薬の作用の出かたにばらつきが生じるのではないかと考えられています。このようなヒトの個人差による結果への影響を小さくするためにも、なるべく多い人数を対象として研究を行う必要があります。
最後に、動脈硬化そのものだけでなく、動脈硬化によって引き起こされる心血管疾患や脳血管疾患などがNMNの投与によって改善されるかどうかを多くのヒトを対象にした研究で見ることができれば臨床的に大きな意義があるでしょう。
今後、ヒトを対象としたNMNの効果を見た論文が次々と発表されるのではないかと期待されるので、研究結果の報告を待ちたいところです。
4.まとめ
日本の研究チームが、NMNを投与すると動脈硬化を緩和する可能性があることをScientific reports誌に報告しました。研究課題は残されているものの、ヒトを対象にした研究でNMNによる動脈硬化の進行を予防する可能性を示せたことは大きな成果です。NMNに関する今後のさらなる研究の発展に期待したいです。
参照論文
Nicotinamide adenine dinucleotide metabolism and arterial stiffness after long-term nicotinamide mononucleotide supplementation : a randomized, double-blind, placebo-controlled trial.
Sci Rep. 2023; 13: 2786
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36797393/
- この記事を執筆した専門家
医学博士大塚真紀