NMNが高齢者の睡眠や運動機能に与える影響
公開:2024年03月22日高齢になると、睡眠の質の低下や下肢筋力の低下など、心身ともにさまざまな変化が起こります。NMNは老化を抑える可能性のある栄養素として注目されていますが、睡眠の質の改善や筋力アップなどの効果も期待できます。今回紹介する論文は、NMNのサプリメントが高齢者の睡眠や運動機能へ与える影響を明らかにした報告で、医学雑誌として有名なNutrients誌に掲載されたものです。
1.加齢による睡眠や運動機能の変化
高齢になると、ホルモンバランスや体内時計の変化によって心身ともにさまざまな変化が現れます。
睡眠に関しては、高齢者は若年者に比べて深い眠りの時間が減り、全体的に浅い眠りになるといわれています。また、なかなか寝付けなかったり、途中で目が覚めてしまったり、朝早くに目覚めてしまう場合もあります。結果的に、寝ているのに疲れがとれていないと感じることが増えたりします。
また、運動機能に関しては、加齢によって足の筋力が低下し、転倒するリスクが高くなります。転倒すると、頭を打って命に関わる場合もありますし、骨折によって寝たきりになってしまう可能性もあります。加齢による筋力低下の原因としては、運動量減少によって筋線維が細くなることが挙げられます。
高齢になると、身体の中のNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)とよばれる物質が低下し、老化が進むと考えられています。NADが生成される前の物質であるNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)のサプリメントを飲むと、すぐに体内でNADに変換されるので老化を抑える効果があるのではないかと期待されています。
2.NMNが高齢者の睡眠の質や運動機能を改善する可能性
高齢者における睡眠の質や運動能力の低下は、生活の質を下げ、死亡率を上げることがわかっています。今回紹介する研究は、NMNの摂取によって、高齢者の睡眠の質や運動機能にどのような変化が起こるか調べるために行われました。
日本のグループは、108名の高齢者を対象に、NMNの睡眠の質や運動機能への効果を評価するために12週間の無作為化プラセボ対照二重盲検試験(RCT)を実施しました。
108名の高齢者は無作為に以下の4つのグループに分けられました。
・NMNを午前中に摂取するグループ
・NMNを午後に摂取するグループ
・プラセボを午前中に摂取するグループ
・プラセボを午後に摂取するグループ
NMNを摂取するグループは1日1回250㎎のNMNを摂取し、プラセボを摂取するグループは何も入っていない偽物の薬を摂取しました。研究に参加した人は、自分がNMNを内服しているか、プラセボを内服しているかはわからないようになっています。また、午前中に摂取するグループは起床時から正午までに摂取し、午後に摂取するグループは午後6時から就寝前までに摂取することとしました。
睡眠の質の評価に用いたのはピッツバーグ睡眠質問票で、就寝時間、起床時間、睡眠時間、睡眠障害の程度、横になってから眠りにつくまでの所要時間などを記入してもらいます。眠気や倦怠感の評価のためには、日本産業衛生学会が作成した「自覚症しらべ」を使用しました。運動機能の評価に関しては、5回立ち上がりテスト、握力測定、5メートル歩行テストなどを行いました。
5回立ち上がりテストとは、椅子から5回立ち上がる際にかかった時間を測定して下肢の筋力を調べる検査で、時間が長いほど下肢筋力が低下していることを意味します。
結果としては、NMNを午後に摂取したグループにおいて眠気の減少を認めました。また、運動機能においてもNMNを午後に摂取したグループは他のグループよりも5回立ち上がりテストの結果が良いことがわかりました。
副作用は、どのグループにおいても認められませんでした。
今回の研究によって、午後にサプリメントとしてNMNを効率的に摂取することが加齢に伴う睡眠の質や運動機能の低下を改善する効果があるのではないかと考えられました。ただし、NMNを摂取するタイミングは午前中がよいという考えもありますし、サプリメントなので基本的にいつ摂取しても効果は変わらないという意見もあるので、今後の研究で検討されることが望まれます。
今回の研究結果は有意義ではあるものの、対象となっている人数が108名と少ないため、今後より多くの人数を対象にした研究で高齢者に対するNMNの効果が検証されることが期待されます。
3.まとめ
日本の研究チームが、高齢者がNMNをサプリメントとして摂取すると睡眠の質や運動機能が改善することを明らかにしました。高齢でも心身ともに元気でいることは、生活の質を保ち、幸せに過ごすために大切です。NMNに関する今後のさらなる研究の発展に期待したいです。
参照論文
Effect of 12-Week Intake of Nicotinamide Mononucleotide on Sleep Quality, Fatigue, and Physical Performance in Older Japanese Adults: A Randomized, Double-Blind Placebo-Controlled Study.
Nutrients. 2022 Feb 11;14(4):755.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35215405/
- この記事を執筆した専門家
医学博士大塚真紀