NMNのヒトへの効果を認めた論文
公開:2024年02月09日NMNは、動物を対象とした研究で抗老化作用があると報告され注目を集めました。しかし、ヒトへ投与したとしても同様の効果があるのかはわかっていませんでした。今回紹介する論文は、NMNのヒトへの効果を初めて認めた報告で、有名な科学誌の1つであるScienceに掲載されたものです。
1.動物を対象とした研究で認められたNMNの効果
NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)は、動物を対象とした研究で、老化を抑える効果を認めたため注目を集めました。動物と同様に、ヒトは高齢になると身体の中のNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)とよばれる物質が低下し、老化が進むと考えられています。NMNを飲むとすぐにNADに変換され、サーチュインが活性化し、老化を抑えるといわれています。サーチュインは老化や寿命に関わっていることがわかっています。サーチュインが活性化すると、心血管疾患、骨粗しょう症、認知症などの加齢に関連する疾患の予防になると考えられています。
2.ヒトを対象とした研究でNMNの糖尿病予防効果を認めた
マウスやラットなどのげっ歯類では、肥満および加齢によってNADの産生が低下し、代謝機能に異常が起こることがわかっています。2021年に今井教授らのグループが発表した研究では、糖尿病予備軍と診断されている閉経後の女性を対象に、代謝機能に対するNMNの効果を評価するために10週間の無作為化プラセボ対象二重盲検試験(RCT)を実施しました。
具体的には、55~75歳の25名の女性が無作為に2つのグループに分けられ、13人は1日250㎎のNMN、12人はプラセボを10週間内服しました。プラセボとは、偽物の薬のことで、何も含まれていません。研究に参加した人は、自分がNMNを内服しているか、プラセボを内服しているかはわからないようになっています。
NMNの摂取開始前と開始後にインスリン感受性を評価したところ、NMN摂取後では骨格筋におけるインスリン感受性が平均25%増加していました。インスリン感受性が高いほど、インスリンが効きやすくなり、血糖値が下がることを意味します。今回の研究結果で見られたインスリン感受性の増加は、体重を10%減らした時に見られる効果、または糖尿病治療薬を12週間投与した時に生じる改善効果と同じくらいだそうです。
NMNの摂取によってインスリン感受性が改善されると、インスリンの効果が発揮されやすくなり血糖値が下がるので、糖尿病の予防につながるのではないかと期待されています。また、どちらのグループにおいても、有害な副作用は認めませんでした。
ただし、動物実験との違いもありました。マウスを対象とした研究では、NMNの投与によってミトコンドリアの機能が高まることが確認されていましたが、ヒトにおいては認められませんでした。ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生に関わっています。
また、糖代謝が改善したのは筋肉だけで、肝臓や脂肪組織におけるインスリン感受性や血糖値の改善、体重減少は認めませんでした。つまり、動物を対象とした研究で見られたような劇的な変化は、ヒトでは認めなかったことになります。
3.今後のNMNの研究課題
今回の研究で、初めてNMNのヒトへの効果を認めたものの、いくつかの研究課題が残されています。まず、研究対象となっている人数が少なく、女性のみを対象にしている点です。女性のみを対象にしたのは、動物を対象とした研究を行った時に、メスにおいてNMNによる大きな効果を認めたからだそうです。今後は、男性も含めて、より多くの人数を対象にNMNの効果を検証する必要があります。
また、研究グループも指摘しているように、動物実験で得られたような劇的な変化をヒトでは認めなかったため、今後の検証が必要です。動物実験で得られたような変化をヒトでは認めないことはよくあることで、身体の大きさの違いや個体の特性の違いなどが原因として指摘されています。マウスに比べてヒトの身体は大きいので、効果を出すために薬の投与量の設定も重要になります。また、実験用に使用するマウスと違って、ヒトは代謝機能や年齢、合併症など個体の特性の違いがあるので薬の作用の出かたにばらつきが生じるのではないかと考えられています。
2022年12月、今井教授のグループは男女56名を対象に、1日300㎎のNMNかプラセボを16週間経口投与する臨床試験を実施しているので、研究結果の報告を待ちたいです。
4.NMNを内服すれば効果を期待できるか
今回論文を発表したグループは、研究によってヒトへの効果を確認できたものの、NMNの内服を推奨するためには今後の研究結果を検証する必要があるといっています。また、今回の研究では糖尿病を予防する効果を認めたものの、老化やその他に関するヒトへの効果に関しては今後の研究結果を待つ必要があります。
まだNMNの内服によるヒトへの効果は検証中ではあるものの、今回の論文を発表した研究グループの1人である今井教授によると、NMNの1日の服用量は100~300㎎くらいが適当とのことです。たくさん服用すれば大きい効果を得られるわけではないので、適量を守りましょう。また、NMNは健康な20~30歳代の人が服用しても明らかな効果を期待できるわけではないといわれています。体内のNADが減少し、老化現象を感じ始める40~50歳代の人がNMNを飲むとよいのではないかと考えられています。
ただし、市販のNMNのサプリメントの中には不純物が含まれているものや、有効な成分がほとんど含まれていないものもあるので、購入する時には注意が必要です。
5.まとめ
アメリカのワシントン大学医学部の研究チームによる「世界初のNMN臨床試験に関する成果論文」が米科学誌のScienceに掲載されて注目を集めました。研究課題は残されているものの、ヒトを対象にした研究でNMNによる糖尿病の予防効果を認めたことは大きな成果と考えられています。NMNに関する今後のさらなる研究の発展に期待したいです。
参照論文
Nicotinamide mononucleotide increases muscle insulin sensitivity in prediabetic woman.
Science. 2021 Jun 11; 372 (6547): 1224-1229
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33888596/
- この記事を執筆した専門家
医学博士大塚真紀