NMNについて

公開:2024年03月28日
NMNについて

NMNは、老化に関連する身体の機能低下を予防する成分として期待されています。サプリメントをはじめとするNMN製品は、美容クリニックや通信販売などで気軽に手に入ります。しかし、安心してNMNを摂取するためにも、NMNがどのような物質なのか理解しておくことが大切です。今回はNMNについて、わかりやすく説明します。

1.NMNとは?

NMNの英語の正式名称は、Nicotinamide mononucleotideで、日本語ではニコチンアミド・モノヌクレオチドといいます。よく使われているNMNという表記は、この英語名称の略です。老化研究の世界的権威として知られるハーバード大学のデビッド・A・シンクレア教授は、近い未来にヒトが老いない身体を手に入れる可能性があることを示した全米でベストセラーとなった「LIFESPAN(ライフスパン) 老いなき世界」の中でNMNを紹介しています。NMNは、身体の中でビタミンB3から作られるので、ビタミンの1種と考えられています。NMNはブロッコリー、枝豆、アボカド、牛乳などの食材に含まれているので、食事として摂ることもできます。ただし、食品中のNMN含有量は少なく、抗老化作用を期待して1日300㎎相当のNMNを食事から摂取しようとすると、枝豆だと約40,000粒、アボカドだと約720個、ブロッコリーだと約4,800房を食べなければいけません。つまり、食事だけでは抗老化作用を期待できるほどのNMNを摂取することは難しいので、サプリメントなどを利用した方が効率よくNMNを摂取できます。

2.NMNとNADの違いは?

ヒトは高齢になると身体の中のNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)とよばれる物質が低下し、老化が進むと考えられています。NADは補酵素とよばれる物質で、NADHに変換された後に、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生に関わります。体内のNADが増えれば、エネルギー産生量が増すだけでなく、老化に関わるサーチュイン遺伝子が活性化され老化を抑制するといわれています。しかし、NADを直接摂取しても体内に吸収されづらいので、NADの前駆体であるNMNが注目を集めています。NMNをサプリメントとして飲めば、すぐに体内でNADに変換されるので、サーチュイン遺伝子が活性化し、老化が抑えられるといわれています。ヒトには、7種類のサーチュイン遺伝子が存在することがわかっていますが、NMNは7種類全てのサーチュイン遺伝子を活性化します。

ところで、生化学の話になりますが、NADは電子を受け取る、失うという酸化還元反応を繰り返しており、電荷を帯びている状態のNADをNAD+と表現します。NADとNAD+は、同義で表記されていることが多いです。

3.NMNとNRの違いは?

NR(ニコチンアミドリボシド)は、アメリカ食品医薬品局(FDA)でも承認されている若返り成分です。NRを摂取しても、体内のNADが増えます。NMNより吸収率が高く、若返り効果も高いのではないかと考えられています。NMNと同様に、NRのサプリメントも美容クリニックや通販などで購入できます。

4.NMNの研究

今までの医学的な研究の結果により、NMNには抗老化だけでなく、さまざまな効果があることがわかっています。例えば、NMN研究の第一人者である今井教授らは、2021年に報告した論文で、NMNが糖尿病を予防する可能性があることを明らかにしました。また、2022年に筑波大学のグループが報告した論文によると、高齢者にNMNを投与したところ、下半身の機能改善が見られ、転倒しづらくなったそうです。他にも、認知症の予防、睡眠の質の改善、代謝の改善、心血管疾患の予防、視力の改善、免疫機能の向上、エストロゲンの増加作用などを認めたと報告されています。

NMNの安全性に関しても研究が進められており、東京大学が行った研究によって、健康な高齢の男性42名に対して12週間にわたりNMN250㎎または何も含まれていない偽薬を投与したところ、副作用や有害な影響は確認されず、NMNは安全に服用できることが明らかになっています。

ただし、マウスやラットを対象にした時には劇的な変化を認めたとしても、ヒトを対象にした研究では予想よりも低い効果しか認めないことも多いので、今後さらなる研究が行われることが期待されています。将来的には、NMNの医療への応用にも期待が高まっています。

5.日本、アメリカ、中国におけるNMNへの対応

NMNは、日本だけでなく世界各国で注目を集め、美容クリニックや通販などで手軽に購入できることが多いです。日本は、NMNを医薬品ではなく、食品として認めているので、サプリメントなどで販売することができます。日本におけるNMNの市場規模は年々大きくなっており、2027年には148億円規模に達すると予想されています。

アメリカでは、NMNに関する研究が盛んに行われており、日本と同様に多くのNMN製品が容易に手に入ります。一方で、2022年11月には、アメリカ食品医薬品局(FDA)がNMNをサプリメントから除外すると発表しました。つまり、NMNがサプリメントにしては医学的な効果が高く、近いうちに医薬品として認められるかもしれないということです。今後の動向に注目が集まっています。

中国でもNMNの市場規模は拡大傾向にあり、2020年には約850億円に達しています。しかし、NMN製品の効果に関する誇大表示が問題になり、国内での製造又は販売は認めないという通達が出ていましたが、最近では徐々に規制が緩和されています。

6.NMNと併用されることのある成分

体内のNADの減少だけでなく、活性酸素も老化を促進することが知られています。老化に対する相乗効果を期待するために、NMNのサプリメントに抗酸化作用のある成分が併用されている場合があります。併用されることのある主な成分には以下のようなものがあります。

・レスベラトロール
ブドウや赤ワインに含まれるポリフェノールの1種で抗酸化作用があります。また、レスベラトロールの摂取によりサーチュイン遺伝子が活性化するという報告もあります。

・コエンザイムQ10
コエンザイムQ10は、私たちの身体の中にある補酵素の1つです。補酵素には酵素を補う役割があり、健康を維持するために必要です。体内でエネルギー産生時に発生する活性酸素から細胞を保護する働きがあることがわかっています。

体内のコエンザイムQ10は、20歳前後をピークに減り続け、40代以降には急激に減るといわれています。コエンザイムQ10をサプリメントなどで補うと、抗老化作用を期待できると考えられています。

・プラセンタ
プラセンタは、胎盤という意味です。胎盤は、お腹の赤ちゃんの発育に必要不可欠な組織で、アミノ酸やビタミン、ミネラル、酵素、成長因子などの成分が豊富に含まれています。特に、成長因子には細胞の増殖や分化を促し、再生する働きがあり、アンチエイジング効果を期待できると考えられています。美容ドリンクやサプリメントに含まれるプラセンタは、馬や豚由来のものです。

・NAC(N-アセチルシステイン)
抗酸化作用を示すアミノ酸の1つです。NACには、細胞内の活性酸素の働きを阻止する作用があるといわれています。

7.NMNの実際の評判

NHKスペシャルやホンマでっか!?TVなどのテレビ番組やYouTube、ブログ、SNSなどでもNMNは話題になっています。ボディビルダーの山本義徳さん、タレントの中でも美意識の高い田中みな実さんやMEGUMIさんもNMN製品を愛用しているそうです。インターネットなどで販売されているNMN製品を見ると、疲れがとれるようになった、朝起きた時に気分がよい、ダイエット効果があった、などのようなレビューが投稿されていることがあります。ただし、効果には個人差がありますし、有名人が飲んでいるからといって安易に摂取すると合わないこともあるので慎重に選ぶようにしましょう。

8.NMNを摂取する時に気を付けるべきこと

NMNを摂取する時には、いくつか気を付けるべきことがあります。主な注意点には、以下のようなものがあります。

・摂取する年齢
NMNは、何歳から摂取しても効果を期待できるわけではありません。例えば、健康な20代、30代の若い人が摂取しても、ほとんど効果がないといわれています。体内のNADが減少し、老化現象を感じ始める40代、50代の人がNMNを摂取するとよいのではないかと考えられています。

・適切な摂取量
NMNの抗老化作用を国際的な学術誌「セル・メタボリズム(Cell Metabolism)」で報告した今井教授によると、1日の服用量が多ければよいわけではなく、100~300㎎/日くらいが適当だということです。

・NMN製品の選び方
市場に出回っているNMN製品の中には、怪しいものも含まれています。不純物が含まれていたり、有効なNMN成分が含まれていない可能性もあるので注意が必要です。成分分析が行われ、どのような成分が含まれているか明確に表示しているものを選ぶようにしましょう。

また、NMNにはα型、β型という2種類の型があります。ヒトの体内に存在しているのはβ型NMNなので、α型ではなくβ型が含まれているサプリメントを選ぶようにしましょう。

9.まとめ

NMNは、美容クリニックや通信販売などで気軽に購入できますが、購入前にNMNの成分や効果の出るメカニズム、今までの医学研究の結果などについてよく理解するようにしましょう。また、NMNのなかには、不純物が含まれていたり、効果を誇大に宣伝したり、有効成分が少ししか含まれていないものもあるので注意した方がよいです。今後もNMNの市場は大きくなっていくと予想されますが、安心して摂取できるNMN製品を見つけることが大切です。

この記事を執筆した専門家

医学博士大塚真紀